「教育とは何か」というと、一言でいえば「人間らしい生き方をするうえに役立つことを教えて(授けて)あげること」ということになるでしょう。したがって、ポイントは2つ、「教える内容」と「教える方法」の2点です。これが教育の根本要素です。
つまり、「教育」の核心は、「教師と生徒」「親と子」の接点にあり、ここでの関わり方如何でその良否(成果)は決まるということです。
したがって、「いじめ」のような教育問題が起こるとすれば、その関わり方すなわち2つの根本要素のいずれか、もしくは両方が適切でないことに原因があるということで、今日生起している教育問題もその例外ではないということです。
事実、今の教育では、子どもたちが心底求めている宇宙的視野から捉えた「人間の真の生き方」とそれに必要な「知識と知恵」すなわち「人間学」の基本については殆ど教えられていませんし、また生徒やわが子に対する対応の面でも根本的な問題があり、とても十分とはいえないというのが一般的情況です。
これらのことから、教育問題の解消の最優先課題すなわち「教育改革」の核心は、2つの根本要素の是正にあることがわかります。それをないがしろにして、他のことをいくらやっても本末転倒というもので、やればやるほど損失と混乱を招くのがおちです。
重要なことは、人生に必要な骨組みを子どもたちの中に構築することが肝心で、すべてはそこから始まるということです。
つまり、この構築ができてはじめて、ボランティア教育やIT教育の持ち味が、また教育システムや教育設備などの整備の真価が生かされることになるということです。
最近、私が提言している「教育改革」の核心とその具体対策に関わる貴重な資料が数多く寄せられております。学校教育や家庭教育の場で「人間学」の基本を説いた私の著書を活用した、その実践レポートや生徒の生の声がそれです。
先日も、高崎市立片岡中学校の新井国彦先生(国語担当)から、次のような文面が添え、貴重な資料を送っていただきました。
拙著『君たちは偉大だ』(偕成社刊、1980年発刊以来ロングセラー継続中の児童書)について、生徒の皆さんが書かれた読書感想文(学年全員、155人分)です。
「このたび、片岡中学校2年(155名)4クラスで『君たちは偉大だ』を読ませていただきました。小生の国語の授業時間を調整し、4時間ほど朗読しました。早口で読みましたが、生徒一人ひとりの手元に本を配ってありましたので予想以上に受け止め方が良かったようです。学力的にあまり高くない本校2年生が、これほど感じることがあったのは驚きでもありましたし、とてもうれしくも思いました。子どもたちの一番知りたいことをわかりやすく示してくださっているおかげだと思います。生きたいくうえでの根本的なものの見方、考え方をお知らせいただいたことにあらためて感謝いたします」
155人の皆さんの感想文を読んで率直に感じたことは、今子どもたちは皆、人間としてどう生きたらよいかを真剣に考え、そのことを心底知りたいと思っているということです。
その新井先生から引き続き、今度は、「『君たちは受験生』感想文集の発行に寄せて」という次のような前書きを添えた、生徒の皆さん全員の感想文集を送っていただきました。
片岡中3年生は、『君たちは受験生』(偕成社刊、受験をテーマにした人間学読本)を読了した。昨年度読んだ『君たちは偉大だ』に続き、百瀬昭次さんの著書の2冊目だ。生徒の方から「今度は『君たちは受験生』を読みたい。」との声が聞こえてきた。学年が進み、3年生になった折に、3年生職員に意向をはかったところ快諾を得たので、1学期中の学活・道徳の時間を使って読み進めることにした。今回は、4クラスの各担任が朗読をし、生徒も手元に『君たちは受験生』を開き、活字を目で追う形とした。読了までに4時間ほど要するため、間のびする中で読み終えた部分を忘れてしまったり、飽きてしまったりということが懸念されました。しかしながら、書き上げた感想を見ると、生徒たちは意外と内容を捉えていることがわかる。これは、各担任が熱意を持って読み進めてくれたことが生徒に伝わったものと考える。また、多くの感想に記されているように『君たちは偉大だ』の内容をベースに読んだことも理解を確かなものにしたようだ。
百瀬さんの著書は人を勇気づけ、奮い立たせる。生徒一人ひとりのF型からS型人間に脱皮することを目指して努力を始めるというような前向きな心情が吐露されている。百瀬さんの言葉が「生きる意欲」というものを引き出してくださったことに心から感謝したい。
この感想文集を手にした生徒諸君は、この感想に偽りなきことを証明するため、毎日の学習に心血を注ぎ、来る入試を見事に突破し、さらには人生の難関をも乗り越えていってほしい。
この2冊の本を用いた片岡中学校における読書指導は、次の点できわめて重要な意味をもっていると思います。
まず第1は、
生徒全員に本を持たせ(学校図書として、予め40冊を購入)、先生が自ら朗読するというスタイルをとったこと。そして正規の授業として4時間かけて読了したこと。この先生と生徒の一体化した指導法の有効性です。
第2は、
そうした先生の熱意に生徒たちが共鳴したこと。それと本の中身が生徒たちの要求に合致していた(生徒たちは本物に対して敏感に反応する)こと。これによって大きな成果が得られたことです。
第3は、
『君たちは偉大だ』を読んだ生徒たちは今度は自分たちの方から自発的に、『君たちは受験生』を読みたい(前回は中2だったが、今年は中3で受験生だから)と、先生(学校側)に申し出たこと、そして学校側(先生たち)はそれを受け入れ実施に踏み切ったこと。この生徒たちの主体性(自主性)のすばらしさと、それを生かした先生たちのすぐれた指導性です。
この2つの感想文集から、今の子どもたちは正しい人生観や人間学を適切な方法で教えてやれば、真剣に学び大事なことは必ず吸収するということです。ですから、そのことがわかれば教育改革は決してむずかしいことではないということです。
いずれにせよ、今回の片岡中学校のケースは、今日のような一大変革期だからこそ起こり得た象徴的な出来事であり、真の教育改革のあり方を明示した教育史に残る一大快挙だと思っております。
百瀬昭次 |